「〈できること〉の見つけ方」(石田由香理・西村幹子)

「共に生きる」ということ

「〈できること〉の見つけ方」
(石田由香理・西村幹子)
 岩波ジュニア新書

「障害を持つ人の立場になって考える」、
これは様々な場面で言われることです。
今の子どもたち(少なくとも
私の勤務する地域周辺の)は
優しく面倒見がいいですから、
そうした人をのけ者にするようなことは
ありません。
これまでも障害を持つ生徒を
受け持ったとき、
周囲の子どもたちは
手助けしてくれました。
かつて修学旅行で引率したときも、
子どもたちは積極的に
サポートしてくれました。
でも、「(障害を持つ子がいなければ…)
自分たちはもっといろいろな活動が
できたのに…」という本音も
聞こえてきました。

私自身、障害を持つ子どもの
親であるにもかかわらず、
障害を持つ方々との接し方に迷うことが
しばしばあります。
そんなときには
この一冊を読み返すことにしています。
本書「〈できること〉の見つけ方」です。

筆者は1歳3ヵ月で両眼を摘出し、
全盲となったそうです。
努力を重ね、盲学校を卒業し、
大学進学、そしてフィリピン留学。
いろいろな困難を乗り越え、
家族と決別してまで
自分の道を進みます。

しかし、筆者は
自分の歩んできた道のりを、
「困難を乗り越えた物語」として
紹介しようとはしていません。
一人の大人として、
未熟だった自分を振り返り、
「共に生きること」の大切さに
気づいた過程を、
正直に綴っているのです。
フィリピンへの教育ボランティアを
主としたスタディツアーに
参加した経験を振り返り、
「何かが変わりました。
 世の中の人々は、
 母親が言うほど私を邪魔だとは
 思っていないのかも知れない、
 かえって私のほうで
 壁をつくっていたのかも知れない」

そこから彼女の「できること」探しが
始まりました。

障害者とどう向き合うべきか考える
スタートとなる一冊だと思います。
それは子どもたちだけでなく、
私たち大人にとっても同じです。

最近、少しずつわかってきました。
「助けてあげる」ということではなく、
「共に生きる」ということを
もっと教えるべきだったということに。
さらに「障害を持つ人から
いかに学ぶか」という視点まで
踏み込むことが必要なのでしょう。

「できること」を見つける。
障害があるなしにかかわらず、
すべての人間にとって
大切なことだと思います。
そして大人の役割は、
子どもたち一人一人の
「できること」探しの
支援なのではないかと思うのです。

全ての人たちが共生していく
社会の在り方を、私たちは常に
模索していかなければなりません。
これからの共生社会の
主役となる中学生に、
そして今の社会に生きる
大人のあなたに、
ぜひお薦めしたい一冊です。

※参考までに章立てを
 はじめに
 1章 私がいたら邪魔?
 2章 自ら壁を作っていたかも
       しれない最初の一年
 3章 みんなの
    「できること」を見つけたい
 4章 見方が変われば景色が変わる
 5章 誰にでも
   できることがある社会を求めて
 おわりに
 はじめに・5章・おわりに→西村幹子
 1章~4章→石田由香理

(2020.5.7)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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